ジェイドありえない5題 3.余裕の無い顔
ルークが怪我をした。
まあ、戦闘すりゃ無傷って訳にはいかない。何しろルークは俺と同じで前衛担当だ、接敵の機会だって多いからな。
ただ、今回はちょっと事情が違った。
サプライズエンカウントを食らった……ってのもあるんだが。
一番に狙われたのが、背後を突かれたせいでまともに接敵する形になったジェイドの旦那だった。
それに気づくが早いか、ルークが剣抜いて突入していったんだ。
確かに旦那は物理攻撃には弱いし、旦那を狙ってきたやつは物理しか能のない奴で。
さすがに詠唱する時間もなかったから、旦那だって槍を出して応戦した訳だ。
え、俺? もちろん他の敵に斬りつけてたよ。ティアが狙われてたからな。
旦那なら大丈夫だって根拠も無しに信じてるし。ああ、旦那が『死霊使い』だってのが根拠か。
槍でざっくり貫かれていく魔物の姿をちらりと横目に見つつ、剣を振るう。
目の前にいる最後の一頭を切り伏せたと同時に、ざくりと肉が斬られる音を耳にした。
次の瞬間詠唱が走り、譜術の光が辺りを覆い尽くす。
光量が元に戻ったとき、俺の目に入ったのは血まみれのルークを腕に抱えている旦那だった。
どこか怯えるように、戸惑うように、泣きそうに、紅い目を見開いてルークの名を呼んでいる。
その中に済みません、という言葉が紛れていたのに気がついた。
ああ、ルークの奴旦那を庇ったな。
旦那は俺やルークより華奢な身体をしてるから、同じ一撃を食らってもダメージの度合いが違うから。
大丈夫だよ、と旦那を見上げながらルークが声を掛けている。
その言葉に気づいているのかいないのか、旦那は顔を引きつらせたまま。
見たところ、ルークの傷は出血量こそ酷いけれどそう深いものでもなさそうだ。
あの血だって、ほとんどは返り血だろう。臭いが違う。
落ち着いて見れば、旦那だってそんなのすぐ分かるだろうに。
えらく珍しい光景が展開してるな、と心の中で呟きつつ、俺はティアを呼んだ。
とりあえずはルークの傷を治さないと、旦那のパニックは落ち着きそうにないからな。
にしても旦那、何にそこまで焦ってんだか。
ルークが怪我したことか。
自分が庇われたことか。
まあ何にせよ、いくらレアとはいえあまり見たくない顔だったな。
次からは気をつけないと。
いや、俺の名前もあんな風に焦って呼んでくれるなら、一興か?
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