ある朝。
いつものように目を覚まし、
朝食を作りに台所に行った。

「おはようございます、先輩」
「おはようございます、士郎さん」
「おはようございます、お義兄さん」
「お、おはようございますっ、士郎お兄ちゃん!」
 なんか、桜がいっぱいいた。
 なんでさ。

さくら・さくら



 まずは、俺や遠坂もよく知ってる桜。
「えーと、桜は桜?」
「はい、間桐桜ですっ」
「うん、桜だ」

 次は、多分少し未来から来たんだろうなって感じに大人びた桜。
成人したのかな。
「お前も桜……だよな」
「はい。衛宮桜ですよ、忘れたんですか士郎さん?」
「……ええと」
「士郎〜〜〜どういうことかしら〜?」
「俺が知るかー!」

 その次も、さっきの桜と同じくらいの年齢であろう桜。でも何だか雰囲気が違うなあ。
「んで、お前は……」
「間桐桜です。……お義兄さん、髪の色とか染め戻したんですか?」
「……あー。お前の知ってる俺の髪の色は」
「白です。最初は赤毛だったんですけど、だんだん白くなっちゃって」
「……
アーチャーじゃない、
それ」
「……いや、桜に兄って呼ばれてるだけアーチャーとは違うと思うぞ」
「それでも姿はああなるのね……ええい士郎のばかー!」

 そうして最後。ちっちゃい桜は、髪の色が遠坂とよく似ていた。
「……この子だけ髪の色とか違うな。お名前は?」
「はいっ! とおさかさくらですっ!」
「ああ、その子は遠坂の家にいた頃の桜ね」
「なるほど。ああよしよし」

 数日して、遠坂が俺と桜×4を招集した。どうやら原因が分かったらしい。
「さて、結論から言うと」
「結論出たのか、遠坂」
「当たり前でしょ? どうもねえ、宝石剣の実験したときに時空の裂け目ができて、
そこから紛れ込んで来ちゃったみたいなの」
「……つまりはお前のポカってことか」
「………………てへ」
「てへじゃないです、姉さん」
「士郎お兄ちゃん、大きな凛お姉ちゃん、悪いことしたの?」
「いや。ちょっとうっかりしちゃっただけだよ。な、遠坂?」
「ううううう……」
 うっかりでなければ、それこそお前は悪党だぞ? 遠坂。

 そうして、考えることは一つ。
「で、どうするんだ? 別の世界から来てしまったのなら、その世界に返すのが当たり前だろ」
「そうね……」
「どうした?」
「……小さい桜を返したら、ひょっとして私たちと一緒にいる桜みたいに
間桐の家に引き取られるかもしれない。そしたら……」
「でも、ちっちゃい桜のいた世界じゃ、きっとちっちゃいお前が心配していると思うぞ」
「う……そうだろうけど、でも……」
「どこの世界でも、桜がいなくなったら遠坂はきっと心配していると俺は思う。
俺と会っているなら、きっと俺も」
「そう、だけど……」

 やがて、時は至る。
「お世話になりました。お幸せに」
「あんたもね」

「それじゃあ、失礼します。ふふ、楽しかったですよ」
「俺もだ。そっちの俺によろしくな」
「はい」

「……ごめんね。ごめんね、桜」
「どうしたの? 大きなお姉ちゃん」
「ううん、何でもない」

 日常は戻ってきたけれど。
「……静かになっちゃいましたねー」
「そうだなあ。うちって結構広かったんだな」
「……そう、ね」
「あー士郎、お腹空いちゃったー」
「はは、了解。何か軽く作るから待っていてくれ。桜も」
「あ、お手伝いしますよ」
「いいから。任せろ」
「あ……はい」

 だけど、どこかの世界はそのままじゃなかった。

「駄目ー! 桜はよそに行っちゃ駄目なのー!」
「お姉ちゃん……わ、わたしも、まとうのお家には行きませんっ!」
「凛! 桜!」
「そうだな。やめた方がいい。間桐なんぞに売ったところで蟲の胎にされるだけだ」
「雁夜おじさん!」
「戻ってきたのか」
「ああ。だから、養子なぞ必要ない」

 俺たちは、何も知らないけれど。

戻ります