たまにはこんな『戦争』を ―士郎くんの不幸?―
「問おう。貴方が――か」

 土蔵の中から出現した金の髪の少女が、俺を見てそう言った。同時に、俺の左手に痛みが走る。彼女は俺の左の手に浮かび上がった痣を見て、満足そうに頷いた。

「わたしが最後の参加者、セイバー。これより我が剣は貴方を獲る為にあり、貴方の運命は勝負の行方と共にある。――ここに、契約は完了した」

 ――――契約って、何のさ?

「へぇ、そうなんだ。今回の『賞品』は衛宮くん、あなただったのね」
「――何で、よりにもよってこいつなのだ?」

 家に押しかけてきた遠坂は、俺の手の痣を見てにやぁりとあくまの笑みを浮かべた。その背後で、アーチャーとか名乗った奴が額を手で押さえて首を振っている。というか、俺はさっぱり訳が分からないんだが。

「あー、その、遠坂……賞品って、何のさ?」

 大体、人を捕まえて『賞品』って何さ。そう続けようとした途端、あかいあくまががあーと吠えた。

「へ? ちょっとあんた、冬木の魔術師の癖に知らない訳じゃないでしょう? 何年かに一度、この冬木市を舞台に行われる『戦争』を! あんた、その『優勝賞品』に選ばれたんだから!」

 ――――ナンデスカ、ソレ。

 それで。
 『戦争』の監督役だという奴がいる教会まで引っ張ってこられた。魔術協会だけじゃなく、聖堂教会まで噛んでるのかよ。

「……というわけなんだけど、綺礼。こいつ、賞品に選ばれた癖に何も知らないみたいだから説明してやって」
「説明と言われてもな……凛から話は聞いているのだろう?」

 背の高い、どう見ても胡散臭い神父が監督役。その眼が何だか気に食わなくて、視線を合わせないようにしながら返事をした。

「あ、ああ。冬木市の中で、魔術師や使い魔やいろんな奴が選ばれて戦争する。最終的な勝者が『賞品』をゲットするって、ほんとにこんなことやってるのか?」
「うむ。ぶっちゃけ、凛の父親と貴様の父親は前回の参加者だが」
「そうね……って、衛宮くんのお父さんも参加者ー!?」
「そうだ。確か、前回の『優勝賞品』は『可愛い息子』だったかな」
「……………………あんのクソ親父――――――!!」

 ――――親父。何やってたんだあんた、正義の味方じゃなかったっけ?
 と言うか……俺、2回連続で『賞品』だったりシマセンカ?

「ああ、ちなみに『副賞』だが、何でも願いが叶う聖杯だぞ」
「普通はそれが賞品じゃないのかー!?」

 ということで。
 参加者の思惑は様々に入り乱れてる模様。
 俺は『賞品』だから、ある意味蚊帳の外。

「キリツグから、シロウに何かあったら何とかしてやって欲しいと頼まれています。それに……シロウの作る料理は美味しい。この素晴らしい料理の数々を失うのは実に惜しい」

「ふ、ふんだ。あんたみたいな半人前をほったらかしにしてたら、わたしの気が収まらないじゃないの!」
「ふん。勝者が『賞品』をどう扱おうと自由だからな……これで、やっと念願を果たせる」

「わたしはキリツグの娘で、お兄ちゃんはキリツグの息子。だから、お兄ちゃんはわたしのなのー!」
「■■■■――!」

「わ、私は特に坊やに興味なんてないわよ。宗一郎様が……」
「私も特に興味はない。だが、一成が衛宮とは仲が良いのでな」
「賞品を手にするのは私ではないだろう。しかし、私はあの青い剣士と是非刃を交えてみたい」

「あ゛? だって、衛宮は人の代わりに掃除でも何でもやってくれるし。馬鹿だけど良い奴だからな」
「サクラが士郎を望んでおりますので。ほんの少しお裾分けを頂ければ、それで結構です」
「せんぱいがしょうひんせんぱいがしょうひんせんぱいがしょうひん……くすくす、ごーごーです」

「若い肉体ぢゃ! 儂の次のぼでぃは、あれが良いぞぉ!」
「主殿がお望みであるのならば、ワタシはそれに従うまで……あ、名前だけは譲って頂けませんかな?」

「んー、俺は力一杯戦闘できりゃそれでいいや。おい坊主、道場で一勝負するか?」
「我は王! 民は王のモノ、故にセイバーも、ついでにそこな雑種も我のモノぞ! こら何か文句あるか言峰!」
「ん? あーいやいや……私は賞品には興味がない。良き相手のところに嫁げると良いな、衛宮士郎よ」

 ――――あー。
 願わくば。
 せめて、勝者は女の子だといいなぁ。
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