紅瞳の秘預言23 和解
「……さて」
和解を受け入れてどこかすっきりしたのか、晴れ晴れとした表情になったジェイドが部屋の入口に視線を向けた。ルークが入ってくるときに乱暴に扱われた扉は、ほんの僅か隙間を見せている。
「ずっと聞いていたんでしょう? あまり良い趣味ではありませんねぇ」
ジェイドが掛けた声に、ルークがえっと振り返る。数秒遅れで扉が開かれ、そこからぞろぞろと同行者たちが室内に入ってきた。先頭に立っているのは、小柄な導師。
「あはは……済みません、ジェイド」
「……って……イオン、みんなも! 何でだよ」
照れくさそうな笑顔で緑の髪を掻くイオンに、ルークは一瞬ぽかんと口を開けた。が、すぐに常態復帰すると慌てて全員の顔を見回して喚く。
まず答えたのはぷうと頬を膨らませ、腰に手を当てて少し怒り気味のアニスだった。
「何でって、そりゃルークと大佐のこと心配だもん」
「ルークは短気なところがありますから、また喧嘩になるのでは無いかと思いましたの」
アニスと同じ表情を浮かべ、ナタリアが頷いた。こちらは腕を組み、呆れた姉のような視線でルークを見つめている。ただその目元は僅かながら笑みを湛えており、幼馴染みとその友人を微笑ましく見つめている。
「後、旦那が本音を素直に言うかどうかもな。これだから年寄りは面倒なんだよ」
苦笑を浮かべつつ、1人同行者たちから距離を置いて立っているガイが肩をすくめた。と、ティアが腕の中のミュウを撫でながら、横目で視線を送る。
「そう言うガイも、大佐のこと嫌がって無かったかしら?」
「うっ」
少女の視線の厳しさに数歩後ずさったガイを他所に、ぬいぐるみを抱えたままのアリエッタが無邪気に微笑んだ。その表情は、ティアに抱かれているチーグルとまるで同じ顔をしている。
「ルーク、ジェイド、仲直り良かった」
「みゅみゅ、仲直り良かったですのー。ほら、ガイさんもジェイドさんと仲直りするですのー」
「……っと、そ、そうだな」
大きな耳と小さな手が、同じように動いて後ずさったままのガイを招く。女性たちから距離を離すように壁沿いに歩いて室内に入ると、ガイはジェイドのそばに立った。短い髪を掻いてしばらく言葉を選んでいたようだったが、やがて小さく頷くとぺこりと頭を下げる。
「……あー、その……悪かった。こっちが勝手に誤解しちまったみたいだな。確かに、旦那は俺たちよりいろいろ知っていて当然なんだし」
「いえ、私の方ももう少し言葉を選んでいれば良かったことですから。こちらこそ、済みません」
僅かに首を振ってジェイドも答える。立ち上がり右手を差し出すと、「ああ」と頷いたガイの手が握り返して来た。
「……あら?」
テーブルの上に広げられたままになっていた紙の1つに、ティアの目が吸い寄せられた。
それはオールドラント全域の地図。旅行用に一般の店で販売されているものであり、軍事拠点などは大した書き込みも為されていない。だが、街道を使って旅をする民間人が使用するには十分な精度を誇っている。
その地図の何カ所かに、インクで印が付けられていた。外殻大地に出てからまだ日の浅いティアには、その印の意味が全く理解できない。だから、素直にこの印を付けたであろう当人にその疑問を投下する。
「大佐、この地図に書かれている印は何ですか?」
「ああ、それですか。……死ぬつもりでしたから、その前に持っている知識を全部書き出しておくつもりだったんですけどね。ついでですから、いくつかお伝えしましょうか」
くすりと肩を揺らしながらジェイドは、他の紙を手早くまとめると地図をテーブル上に広げ直してみせる。その場にいた全員の視線が、1枚の紙の上に集まった。
付けられた印は10個所。
15年前に滅んだホド、これから自分たちが向かうアクゼリュス。
セントビナーの東にあるシュレーの丘、砂漠の中央部にあるというザオ遺跡。
強い風が吹くと言うメジオラ高原、大規模な雪崩が起きると噂のあるロニール雪山。
ダアトのすぐ近くにあるザレッホ火山。
ルークとティアが疑似超振動により飛ばされて来たタタル渓谷。
そして北極のアブソーブゲート、南極のラジエイトゲート。
「これは、オールドラントに存在するセフィロトの位置ですよ。ホドも含め、全部で10あります」
以前と同じような穏やかな笑みを浮かべて、ジェイドは答えた。いずれ巡ることになる重要拠点の位置は、何をさておいても彼らに伝えねばならない事柄の1つである。
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