マジカルリンリン1


 ――Anfang――

 透き通った声が、金色の光と共にほとばしった。と同時に、土蔵の入口から弾き飛ばされるようにランサーが飛び出してくる。そして、わたしの邪魔をしていた影たちが光にかき消されていった。

「な……!」
「ち、そういうことかよ!」

 舌打ちをしながらなおも後退するランサーを追って、土蔵の中から人影が飛び出してきた。勢いを殺さないまま青い男に斬りかかった『彼女』に、一瞬わたしは目を奪われる。
 一言で言えば、可愛い少女だった。さっきの光をそのまま糸に絡めたような淡い金の髪と、青のドレスとその上に纏った鈍い銀の鎧が鮮やかに月光を浴びて輝く。その手には……『何か』を構えているようだけど、わたしの目には見えない。そして、わたしとお揃いのものがあった。彼女は白だけど、猫耳と猫尻尾。つまり……彼女はわたしと同じ、聖杯戦士?

「……セァアッ!!」

 彼女の気合いと共に、その『何か』が振り下ろされる。ガキィンと金属同士がぶつかる音がして、ランサーが彼女の攻撃を赤い槍で受け止めたことが分かる。ばっと弾かれるように飛び離れた彼女に、わたしは叫んだ。

「援護するわ! ――Sieben!」

 はっとこちらを見る彼女。そのまっすぐな瞳に大きく頷いてみせて、懐から取り出しておいたオパールをランサーの足元にぶつける。呪文に反応して魔力の風を放出したオパールが、奴の動きを押しとどめる!

「感謝します!」

 彼女も、わたしが味方だってことを分かってくれたみたいだ。こくんと頷いてくれて、即座に踏み込みながら今度は横に得物……多分剣だろう……を叩き込む。それを槍で受け止めるランサーの技量も大したものだけど、何しろ彼女の得物は目に見えない。何度かやり合えばさすがにその長さなんかはばれてしまうだろうけど、それには時間が掛かる。その前に倒してしまえば問題はない。

「……っ、てめぇ、何モンだ」

 力任せに彼女を押し戻し、自らの体勢を立て直してからランサーが問う。その表情は……あら、何だか嬉しそう。そう言えばあいつ、戦うのが楽しいって前に言っていたことあったっけな。魔術師であるわたしと戦うより、武器で戦う彼女を相手にした方が楽しいのかも知れない。あ、ちょっとムカツク。
 彼女は一瞬奴の顔を見た。手の中の見えない武器を油断無く構え直してそれから、形の良いピンク色の唇を開いた。堂々と、まるで自分がこの世界を統べる王であるかのように雄々しく。

「我が名はセイバー。聖杯戦士、マジカルセイバー!」
「……やはりそうかよ。何てこった、小僧を1匹潰すつもりが敵を増やすハメになるたぁな」

 わたしもやっぱりそうか、と頷いた。どうやら聖杯戦士っていうものは、猫耳猫尻尾装備が標準らしい。誰よ、こんな衣装デザインしたの?
 一瞬マジカルセイバーに気が逸れたその瞬間。ランサーが身を翻した。とんと爪先が大地を蹴ると、あっという間に青い身体が塀の上に移動している。

「さすがに2対1じゃ分が悪すぎるな。ここは引かせて貰うぜ!」
「待ちなさい! コマンダー・ランサー、逃げられると思ってるの!?」
「思ってるさ。じゃあな!」

 う、やっぱ動きは早い。一瞬のうちにランサーの姿は消え去ってしまっていた。マジカルセイバー……長いから以下セイバー、は彼を追おうとしたけど、踏みとどまってくれた。そしてわたしを振り返る。

「……今代の聖杯戦士、ですね。わたしはマジカルセイバー、あなたと同じ聖杯戦士です」
「マジカルリンリン、よ。よかった、仲間がいてくれて」

 改めて名乗りを上げてくれたセイバーに、わたしも名乗る。ほっと胸をなで下ろして……すっかり忘れていた事実をふと思い出した。あちゃー、わたしってやっぱりどこか抜けてる。

「あ、しまった衛宮くん!」
「エミヤ? あの少年でしたら無事です。あの建物の中でわたしが眠らせてあります……お連れしましょうか?」

 そう言ったセイバーの言葉に、わたしは再びほっと胸をなで下ろした。そして、「ええ、お願い。部屋に連れ戻って休ませないと」と答える。わかりました、と頷いて土蔵の中へ戻っていくセイバーの背中を見ていて、ふっと気になることが頭をよぎった。セイバーは、何故この中から出てきたのだろうかと。

「……ま、いっか。後で聞けば済む事よね」

 あどけない寝顔の衛宮くんを布団に寝かせながら、わたしはぼそっと呟いた。そのまますっかり、話を聞くことを忘れちゃってたと気付くのは随分後になってから、だったんだけど。

 冬木市の平和を守る為、アンリ=マユの野望を砕く為。
 聖杯戦士☆マジカルリンリン、今ここに見参!


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