マジカルリンリン2
「そこまでよ、アンリ=マユのコマンダー・キャスター!」

 ああ、何てご都合主義。わたしたちが柳洞寺に飛び込んだ時、アーチャーは空間ごと凍らされていた。そして衛宮くんは剣を持って突っ込んでいっていて、キャスターが彼に向けて魔力を叩きつけようとしていた。キャスターとは以前に戦闘したことがある……強大な魔力を持つ、神代の魔術師。

「シロウ!」

 セイバーが全速力で突っ込んで、衛宮くんとキャスターの間に割り込む。何でも彼女、対魔力がやたら高いそうなのでこういう時の盾には最適なのだ。

「え……あ、君は」
「下がりなさい、あとは我々が」

 ぐいと衛宮くんを引っ張って、そのまま後退するセイバーと並んだ。その途端、わたしもセイバーもびしっと決めポーズ。ああもう、このギアスはどうにかしてー!

「冬木の平和を守る為!」
「邪悪の野望を砕く為!」
「聖杯戦士☆マジカルリンリン!」
「マジカルセイバー!」
「ここに見参!」

 ええい、2人用の名乗りも設定済みかい。ふざけんな制作者……って考えてる場合じゃないので、ともかく氷漬け(ちょっと違うけど)のアーチャーを守るように立つ。

「マジカルセイバー……? そう言えばランサーが言っていたわね、新しい聖杯戦士が現れたって。可愛らしい子だわ、ちょっとコスチュームが無骨だけど」
「いや、ツッコミどころはそこじゃないだろ」

 ありがとう衛宮くん、そこにツッコんでくれて。それにしても、アンタ何でアーチャーのと同じ短剣持ってるのよ。その辺は後でこっちからツッコんでやろう。

「そうね。コマンダー・キャスター、一般人拉致の悪行、見逃す訳にはいかないわ!」
「一般人? ああそうね、その魔力量で魔術師なんて、言っても信じないでしょうね!」

 わたしの言葉に、キャスターが楽しそうに返す。……こら衛宮士郎、魔術師ってどういうことかしら? と肩越しに睨みつけてやると、あちらさんはきょとんとした表情で尋ねてくる。何よ、その子犬のような顔は。

「……遠坂、もしかしてお前も魔術師だったり……する?」
「一応、冬木の管理者はわたしだけど?」

 そう返事してやると、衛宮くんの顔が青ざめる。一応、自分が管理者に挨拶もせずに工房構えてるモグリの魔術師だって、管理者たるわたしにばれることの意味を分かってくれてるようね。うんうん。

「いいわよ、そのことは後回し。最優先事項は目の前の敵をぶっ倒すことよ」
「わたしが対応します。凛はシロウとアーチャーを」

 す、とセイバーが前に出る。既にその手には見えない剣が構えられており、やる気満々だ。

「任せたわ、セイバー。衛宮くん下がって、アーチャーを解き放つから」

 わたしの言葉と同時に、セイバーがキャスター目がけて突っ込む。それに対して、キャスターは余裕綽々の表情だ。ふふん、セイバーの対魔力甘く見過ぎよ、アンタ。

「――!」
「甘い!」

 放たれた魔術に対して、セイバーは構えることも避けることもしない。ただ真っすぐ突っ込んでいく、それだけで魔力の固まりがバシバシと弾け飛ぶ。

「な、何ですって!?」

 うん、ああいう自信過剰な相手の焦り顔って見てて気分がいいわよね。さて、わたしはその間に、とポケットから宝石を取り出した。キャスターの魔術ってあまりにきちんとした術式だから、逆に解きやすいっていうのは何だか笑える。

「――Abzug Bedienung Mittelstand」

 呪文を唱えながら、アーチャーを閉じ込めている空間に宝石を叩きつける。と、ぱぁんと氷が弾けるように空間が割れ、中からふわりと外套をなびかせながらアーチャーが降り立った。無駄にかっこつけてんの、どうにかならないかしら。

「済まない、凛。助かった」
「別に。便利屋がいないと、こっちも困るのよね」

 う、いけない。どうも素直にこられると、こっちはすねたように返してしまう。わたしの悪い癖だ。

「次からは気をつけてよね。余計な心配かけないで」
「善処しよう」

 わたしの言葉にアーチャーが頷いてくれた瞬間、目の前でギィンと鋭い音がした。そして、セイバーが後ろも見ないまま飛び下がってくる。

「凛! 周囲を囲まれました!」
「な……!」

 セイバーの指摘に、慌てて周囲を見回す。と、衛宮くんが信じられない、という顔で悲鳴のような声を上げた。

「一成!」

 衛宮くんの視線をたどる……と、そこには生徒会長が寝間着姿で立っていた。手には包丁を構えて、目は虚ろ。しまった、わたしたちを包囲しているのは柳洞寺に住んでいる坊さんたちだ。既に全員、キャスターの操り人形か!

「これなら、あなたたちも手は出せないわよね。さぁ、おとなしく降伏しなさい。悪いようにはしないから」

 一段と大きな身体の……あれは住職か? その坊さんの陰に隠れるようにして、キャスターはからからと笑い声を上げる。――と、アーチャーが口の端を歪めた。ひょっとして……笑った?

「あいにくだが、私にはその手は効かない」

 ぽつりと呟いて、彼はいつの間にか両手に携えていたものを構えてみせる。右手には、細身の剣。左手には、黒塗りの大ぶりな弓。そうだ、彼は『アーチャー』だ。

「I am the bone of my sword.」

 呪文と共に放たれた『矢』が、まるで人の波を擦り抜けるようにしてキャスターの肩口を射貫く。次の瞬間、セイバーと衛宮くんが同時に走り出した。わたしは、素早くポケットから次の宝石を引き抜く……自分の役割くらい心得ているわ。

「――Das Verteidigungschild wird entwickelt!」
「風王結界!」

 わたしの魔術で衛宮くんとセイバーを守る盾を形成し、セイバーが見えない剣から風を吹き出させて坊主たち(生徒会長込み)を吹き飛ばす。そして、衛宮くんは盾と風に守られて、キャスターの元へとたどり着いた。

「一成たちを解放しろ、キャスター!」

 白い刃と黒い刃が魔術師の衣を切り裂く。と、何やらちらっと見たくもないような物が見えた。フードが裂けて、見えた顔は結構整った、わたしよりは少し年かさの女性の顔立ち。淡い紫色の髪が柔らかそうで……で、どうして黒い猫耳がちらりと見えたのかなーっ!?


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