マジカルリンリン6
 魔術師遠坂凛は聖杯戦士マジカルリンリンである。
 冬木の地を守り、悪の組織アンリ=マユを滅ぼすために立ち上がった。
 マジカルセイバー・マジカルキャスター・マジカルライダー・マジカルチェリー。
 そして、彼女たちの要たる衛宮士郎。
 彼女たちは一丸となり、アンリ=マユとの戦いに挑む!
 かちゃかちゃかちゃ。
「明日から学校再開ですか……まぁ、現場検証も終わったようですし」
 もぐもぐもぐ。
「そうみたいね、ライダー。本当によかったです。あ、先輩、お醤油取ってください」
 ぱくぱくぱく。
「おう、桜、はい。それで、今入院してるのはどのくらいなんだ藤ねえ?」
 こくこくこく。
「ん、3年中心で30人くらいだって。程度は軽い人がほとんどだから、一週間もすれば全員退院できるって。お味噌汁お代わりー」
 むしゃむしゃむしゃ。
「済みませんシロウ。ご飯のお代わりをいただけますか」
 んぐんぐんぐ。
「……ご馳走様でした。士郎、お茶ちょうだい」
「はいよ、御粗末様」
 ああ、食べた食べた、お腹いっぱい。士郎から手渡された日本茶が、安らぎの一時。
「あの、シロウ、お代わりを……」
 この腹ぺこ騎士、まだ食うかー!

 こうして過ぎる、衛宮家の昼下がり。つかの間の平和だけど、やっぱりいいなぁ。


第6話
―ギルガメッシュ! 裏切りの聖杯戦士!―



  - interlude -


 何で、何で何で何で、衛宮も遠坂も桜も僕を馬鹿にするんだ!
 僕は間桐の後継者だぞ。貰われてきた桜なんかとは違う、生粋の後継者だ。
 なのに、何で虫たちは僕より桜を選ぶんだ?
 メスだからか? 虫だらけの身体だからか?
 だったら、僕はどうすればいいんだよ!

 僕に力さえあれば、あんな奴ら叩きのめしてやるのに。
 ボクにチカラさえあれば、桜なんか家に来なかったのに。
 ボクニチカラサエアレバ。

「力が欲しいか? マスター・シンジ」

 あ。
 お前は――マスター・ファーザー。
 僕たち間桐を嫌ってるはずだろ、オマエ。

「私が好まないのは、既に尽きた生にしがみつくマキリの爺だ。お前には好感が持てる」

 うわ、好感? 何か嬉しくないね。
 で、お前は僕に何をさせたい?

「何も。ただ、力を与えようと思ってな。彼は――」

 へぇ?
 ほんとかい?

 あはははは!
 これで……僕はあいつらに勝てる!
 いい弓を手にいれたよ、僕は!

 見ていろ……僕を馬鹿にしたことを、
 後悔させてやる!


 - interlude out -


「え、一度家に戻る?」
 昼食の後、みんなでお茶を飲んでいる時に突然桜がそう言い出した。桜の『家』といったら、わたしの家のすぐ近所に建ってる間桐邸のことになる。

「でも、しばらく留守にしてたんでしょ。大丈夫?」

 藤村先生が桜の顔を覗き込んで尋ねる。彼女も、理由は分からないなりに家に帰らない桜のことを気遣ってくれてる。

「その……兄さん、連絡が取れなくて。取ってきたい荷物もありますけど、兄さんのことも気になるので見てきたいんです」

 桜の口ごもりながらの答えに、わたしは先生に気づかれないように士郎と顔を見合わせた。つまり、桜は荷物を取りに行くことを口実に間桐邸を偵察してくると、そういうことみたい。

「そうなんだ。桜ちゃんは優しいね……お兄さんに会えたら、わたしも心配してたって伝えてくれるかな?」
「あ、はい」

 藤村先生は、桜の兄……慎二が実は悪の組織の幹部なんだってことは知らない。だから、純粋に自分が担任してる生徒として慎二を気遣ってる。それは仕方のないことだ……士郎のお人よし、何パーセントかは藤村先生の影響だな。うん。

「サクラ、荷物を取りに行くのであれば、私も同行します」

 ライダーが右手を上げる。間桐邸に行くということは、ある意味罠にはまりに行くってこと。それが分かってて1人で行かせるほど、みんな馬鹿じゃない。特に慎二、あいつが桜に何するかなんて分かったものじゃないからね。

「そうね。ライダー、お願いします。ところで先輩、大丈夫ですか?」
「あ〜、うん、何とか。大分痛みは引いてきたし」
「そうですか。それはよかったです」

 わはははは。士郎は午前中、セイバーに剣の稽古をつけて貰っててこっぴどくやられたからなぁ。ま、セイバーに言わせてみれば「基礎はできていますから、後は自分に合った型を見つけて経験を積むことです」だそうだ。……士郎に合った型、と言われて最初に思い浮かんだのがアーチャー、ってのは何でだろ。いくら同じ双剣を使うからって。

「士郎、弓道部やめてから身体なまってない? お腹にお肉ぽこんとか言ったら泣くぞ」
「それはないぞ。ちゃんと鍛えてるし、栄養も考えて取ってる」

 藤村先生、大丈夫です。そんな、士郎を丸々太らせて食べようなんて誰も考えて……あれ、考え方の方向性がおかしいな。

「そ、ならいいんだけど。……あ、わたし、今夜から家に戻ることになったから」
「え? どうしたんだ、藤ねえ」

 先生がお茶を一口飲んでから告げた言葉に、士郎が目を丸くした。その右手が差し出した鯛焼きをすかさず分捕るあたり、2人は阿吽の呼吸のようだ。先生、あなたの方が太らないんでしょうか?

「うん。ほら、わたし入院したでしょ。それでお祖父様がめちゃくちゃ心配しちゃってさ、しばらくは家にいなさいって」
「あー、藤村の爺さんか。そりゃ、普段から祖父さん孝行してない藤ねえが悪い」

 『藤村の爺さん』こと藤村雷画氏はいわゆる任侠の親分さんで、士郎にとっても祖父みたいな存在なんだそうだ。先生にとっては実の祖父であるところの氏をほったらかして弟分の家に入り浸ってるってのは、教師としてはどうなんだろ?

「ま、そういう訳なんでわたしは帰るけど士郎、わたしがいないからって遠坂さんやセイバーちゃんたちとの不純異性交遊は許しませんよー」

 ほんとに教師としてはどうなんだ、ニヤニヤ笑ってそういう台詞を言うなんて。士郎も顔真っ赤にしない!

「誰がするかっ!」
「え、しないんですか? わわわわたしはおっけーなんですけどっ!」
「私も、士郎とでしたらやぶさかではありませんが」

 桜、ライダー! あんたら、どさくさ紛れに何ぬかすかー!

「ご安心ください、大河。士郎の貞操は、このセイバーが責任を持って守り通すと約束しましょう」
「うぅ、ありがとーセイバーちゃん。風紀委員がいてくれて、わたしはとっても嬉しいよぅ〜」

 セイバー、真剣なまなざしで藤村先生と固い握手を交わさない! つーか貞操って何だ、貞操って!

「……遠坂、俺って何?」

 カシマシイ女たちの会話について行けなくなった士郎が、半泣きでこっちを見つめている。うー、何か頼られているようで嬉しいけど、ここは……。

「ん? 大家さんでしょ?」
「……はい」

 はっきりそう言っておいた。ごめん士郎、できればわたしもあの会話に交ざりたいんだけどね。
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