マジカルリンリン10
 魔術師遠坂凛は聖杯戦士マジカルリンリンである。
 冬木の地を守り、悪の組織アンリ=マユを滅ぼすため仲間たちと共に戦っている。
 聖杯の器を受け取るために、アインツベルンの城へ向かった聖杯戦士たち。
 少女たちの前にはバーサーカーが、衛宮士郎の前にはアーチャーが試練として立ち塞がった!
  - interlude -


 世界が、書き換えられる。
 本来の世界から、アーチャーが創り出す世界へ。

 固有結界。
 あまり魔術について詳しくない俺でも知っている、魔法にもっとも近いと言われる魔術。
 世界の一部を、自分の心の中の世界で塗り潰すチカラ。

 何もない『エミヤシロウ』がただ1つだけ持つ、自分だけの力。

「……無限の剣製」

 世界が変わると同時に流れ込んで来たその名を、俺はぼそりと呟いた。この世界の主は、乾いた風に髪を乱されながらにやりと笑ってみせる。

「そう。衛宮士郎の心象世界を具現化する魔術――これだけが、生まれながらに衛宮士郎が持つもの」

 その手がす、と伸ばされる。そこには、今までなかったはずの剣が1本、最初からあったかのように突き立っていた。アーチャーの手は、当然と言わんばかりにその柄を掴む。

「だが、これもまた贋作。ここにある全ての剣は、このオレが今までにこの目で見たことがある刀剣の写し」

 剣を引き抜いて構える。俺もまた、あいつと同じ剣を作り出して構えた。身体はあいつより小さいし、髪の色も肌の色も目の色も違うけれど、俺たちの構えは鏡に映したようにまったく同じ。だって、この構えは今手に持っている剣が教えてくれた、こいつを使うのに一番いい構えだから。

「ああ、そうだな。ここにあるのは全部偽物だ」

 奴の言葉を否定はしない。だけど。

「だけど、例え俺自身すら偽物だったとしても――」

 手の中の剣をぐっと握り締める。お前も偽物だけど、俺に使え、振るえと言ってくれる。
 ああ、使おう。振るおう。俺の目の前に立つ、最大の試練を乗り越えるために。
 そして。

「俺のこの思いだけは、本物だから」

 それを、あいつに見せつけるために。


  - interlude out -


第10話
―新たなる力! キシュア=ゼルレッチの秘宝!―



 ――気が付くと、何か真っ暗なところにいた。
 ううむ、わたしはあんなんで死んでしまったのであろうか、いや情けない。

「こりゃ、勝手に死ぬでない。ワシの系譜の分際で」

 ぽこっと頭を殴られた。と同時にぱぁっと周囲が明るくなる……って、今度は真っ白かい。芸のない。
「悪かったのぅ、芸がなくて」

 また殴られた。おのれ、わたしの頭を気安くぽかぽか殴るとは一体どこのどちらさんでしょうかっ!? つーか痛い痛い、叩いてる部分が金属じゃないのがまだ救いかも。

「ワシじゃ、ワシ」
「――へ?」

 くるりと振り返り、その当人の顔を見た瞬間、わたしはぽかーんとしてしまった。ああいけない、人前でこんなにでっかく口を開くもんじゃない。

「え、う、うそ、大師父ー!?」
「うむ、ワシじゃ。今代の遠坂の当主はめんこいおなごで良かったわい」

 目の前にいる髭をたっぷり蓄え、ずるずるべったんなローブを纏った見るからに魔法使いな爺さんは、そう言って手に持ったステッキだか剣だかよく分からないものをぶらぶらさせつつ、にやりとお笑いになりました。って、あんたどこの訛りでしゃべってんのよ、まったく。それにしても……我が遠坂家を魔術の世界に引きずり込んだ張本人、そのものズバリの魔法使い・魔道元帥キシュア=ゼルレッチ=シュバインオーグがいるなんて、ここはどこなんでしょーか。

「とりあえず、可愛いと褒めて貰ったのはありがとうございます。で大師父、ここどこですか?」
「何じゃ、せっかちな嬢ちゃんじゃのぅ。ま、良いわ」

 かんらかんらと笑ってみせて、それからこの爺さんはえっへんと胸を張った。おーい、第二魔法の使い手がこんなガキっぽいおじいちゃんでええんかい。

「ぶっちゃけここは、お前さんの夢の中じゃ。古〜い友人の知り合いの夢魔に手伝ってもうてワシは顔を出しておる」
「あー、わたしの夢の中……あのねー大師父、いくらあなたでもレディの夢の中に潜り込むなんてやらしーですよ?」
「そりゃワシもそう思ったんじゃがな、緊急事態故まぁ許せ」

 いかん、年季が違いすぎる。どう言っても柳に風、さらっと流されてしまいそうだ。……それよりも、緊急事態って何だったっけ。

「――あ、そうだ。アインツベルン……」

 夢の中だと、どうもボケが先行してしまうのは何故だろう。わたしはたった今まで、聖杯の器を手に入れる為の試練だって門番のバーサーカーと戦っていたんじゃないか。士郎は別の場所で別の試練を受けていて、双方がちゃんとクリアーしないと器は手に入らない。駄目じゃないか、忘れちゃ。

「思い出したかな?」
「あーもー、すっきりと思い出しました……」

 ええい、にやにや笑って人の顔を覗き込むな爺さん。そうよ、あんたの系譜たる遠坂はここ一番のうっかり属性なんてもんを持ってる問題児よ、開き直ってやるんだからちくしょー。

「で、思い出したんだからとっとと話を進めちゃってください。わたしグースカ寝てる場合じゃないんです」
「いやまったく。ではさくさくと進めようぞ……お前さんたち、こっそりズルしておるの」

 はい?
 いきなり何てこと抜かすんだ、じじぃ。いやんエレガントじゃない。

「まぁ、気づいてないのはトオサカのうっかり属性と言うことで、それはもう過ぎたことなので構わぬよ。後からフォローは利くじゃろうし」
「何がズルなんですか、大師父?」
「まだ分からんのかい。まぁいい」

 魔道元帥は自分のペースで話を進めていく。こら、少しくらい質問に答えんかい!

「そこらへんは試練をクリアーすりゃ聖杯から説明があろ。で、その試練に勝つには今のお前さんたちじゃ、ちょみっと力量不足じゃと言うておこう」

 うぅ、言われてしまった。そうよね、5人掛かりでろくにダメージも与えられなかったし。ここは素直に認めてしまおう。あー情けない。

「……かもしれません。ライダーのベルレフォーンでもどうにか相打ちに持ち込めた、かな? って感じだったし……」
「あのバーサーカーが門番では、しょうがあるまい。でまぁ、弟子が困っておるのをのんびり眺めてもおられん状況なんでな、爺がしゃしゃり出てきたわけじゃ」

 ……ほほぅ。すると、ちょっぴり期待してもいいのでしょーか? ほら、1年単位のTV番組だと半年くらいでやってくれる、お約束の。あれはスポンサーの意向もあるんだろうけど、わたしにはスポンサーはいません。遠坂の魔術は金が掛かるんだから求むスポンサー。金だけ出して口出すな。この条件じゃ無理か。

「つまり、ここでお約束のパワーアップでもしてくれるって?」
「うむ、やはり遠坂の当主じゃの。話が早い」

 おおぅ本気と書いてマジですかー大師父! って何だかわたし、テンションめちゃくちゃ高いし。さっきまで戦闘してたから、まだハイになったまま落ち着いてないのね、多分。

「いやー、さすがは正義の味方やらんかーと誘った時、それは是非にと二つ返事で引き受けてくれた永人の直系だけのことはある」
「うちの先祖、そんな勧誘で教会から協会にくら替えしたんですか……」

 『永人』ってのは、わたしのご先祖様。それまでは聖堂教会寄りだったうちの家系が、そこから魔術師にくら替えしたターニングポイントに当たる人。わたしこと遠坂凛は、そこから数えて6代目になる、のだが……そーか、今わたしが猫耳猫尻尾でバトルやる羽目になってるのはそのご先祖様のせいだったか。ちょっぴり恨むけど、士郎と知り合えたから許してあげよう。うん。
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