マジカルリンリン11
「間もなく出口です、イリヤスフィール様」

 セラの言葉に、全員が前方に視線を移した。何か行きより時間短縮してない? とイリヤスフィールの方に視線を向けたら、ふふんと鼻で笑われた。

「帰りがショートカット出来るのは、ニッポン古来の伝統でしょ?」
「イリヤスフィール、それは恐らくコンピュータゲームの伝統だ。さほど古いものではない」

 アーチャー、ツッコミありがとう。わたしはゲームとかしないからよく分からないんだけど、深い迷宮とかに潜った時って帰りは地上まで瞬間移動したりするんだとか。行きから瞬間移動したら、そりゃ面白みがないでしょうけどね。
 ……と、そのアーチャーがすっと前に出た。腕を上げてわたしたちを止める。……ほどなく、気がついた。この森を抜けたところ、木々の向こうに……いる。

「……ギルガメッシュだ。ランサーと、影たちの気配も充満しているな」

 低い声が気配の正体を告げる。と同時に、わたしたちはイリヤと士郎を囲むように動いた。ここにギルガメッシュたちがいる目的は明白……聖杯の器と、聖なる鞘だ。

「自分で入ってこられないから、出てきたところを襲う。常道手段ですね」

 先頭に立っていたライダーが、眼鏡越しに森の向こうを見据える。そう、あいつらは結界を越えてこちら側には入って来られない。だけど、ギルガメッシュは一度来たことがあるんだから入口兼出口の場所は知っている。後は、出たところで待ちかまえるだけだ。こっちも、さすがにこんなところで籠城って訳にはいかないしね。

「バーサーカーを先頭に出すわ。彼を盾にするから、みんなは影を蹴散らしながら一気に走り抜けて」

 毅然とした態度で、イリヤスフィールがそう言った。さすがのわたしも、他のみんなも視線を彼女に集中させる。その中にあって指名された本人は、口元から闘気の混じった息を吐いた。どうやら、やる気みたい。

「それしかないでしょう? あいにくだけど、わたしやリーゼリット、セラに戦闘能力はない。シロウだって聖杯戦士と比べればろくな戦力ではないわ。足手まといを連れての戦闘なんて、手枷足枷を付けられてるよりやりにくいはずよ」
「……分かりました。イリヤスフィール」

 彼女の言葉に頷いたのはセイバー。そして、わたしたちを見回すと大きく頷いてみせる。やはり先輩、貫禄があるわ。

「イリヤスフィールの提案を採用します。ライダー、ペガサスを呼んで下さい。イリヤスフィールとシロウを乗せて貰います」
「それは構いませんが、あの2人は?」

 セイバーの言葉を受けて、ライダーが2人のメイドを振り返る。と、彼女たちはお互いの顔を見合わせてうんと頷き、ひょいとボストンバッグを肩に担いだ。

「走るだけでしたら、何とかなります」
「わたしたち、大丈夫」

 サイズの全く違う胸を同じように反らして、2人はそう答えた。それでもちょっと心配だったから、わたしはアーチャーに視線をやる。

「アーチャー、2人の護衛頼めるかしら?」
「任されよう」

 ひょい、とその手に双剣を投影して、アーチャーは答えてくれた。よし、これでOK。ではまぁ、行きますか。士郎が木の枝を何本か拾っているけど、何やってんだろあいつ。

「士郎、アーチャー、バーサーカー。目閉じてね」

 いや、士郎にならもう見られても良いかなーとは思ってるんだけど。いくら未来の士郎でもアーチャーに見せるのは何だかなぁ……バーサーカーは見ても反応ないと思うんだけど、まぁ念のため。それじゃあ、ペンダントに手を当てて……

『――Anfang!』

 一斉に、わたしたち5人の声が森の中に響き渡った。


  - interlude -


「……来たぞ」

 ギルガメッシュが偉そうにふんぞり返って言う。ふん、そんなこたぁ分かってるよ。俺らの目的は、聖杯の力をアンリ=マユが使う為に必要なブツを手に入れることだろうが。それにしてもこのギルガメッシュって奴、俺はどうも気に食わないな。

「……へっ、せいぜい頑張りな。マジカルセイバーはお前さんの好きにしていいんだろ」
「うむ。貴様はせいぜい、器と鞘を手に入れるが良い」
「そっちが本題じゃねーか。ったく……」

 愚痴を続けようと思った瞬間、目の前の空間からやたら強い魔力があふれ出してくる。ははーん、あいつら結界の向こうで変身しやがったな。それでいい……俺はお前らと全力で戦いたいんだよ。

「てやぁぁあぁっ!」

 威勢の良いかけ声と共に、森を切り裂くように光が迸る。ちっ、またマジカルキャスターの発光魔術か。ちったぁ俺らにサービスしやがれってんだ。どっかの変身アンドロイド見習えよな、まったく。

「マジカルセイバー!」
「マジカルキャスター!」
「マジカルライダー!」
「マジカルチェリー!」
「マジカルリンリン!」
『冬木の平和を守る為! 邪悪の野望を砕く為! 我ら聖杯戦士、ここに見参!』

 どかーん!

 ――あー、またこのパターンかよ。この前公園で戦った時とまるで同じ名乗りじゃないか。芸がないのかてめぇら。大体、こんなとこで爆発なんざかまして、森への被害は大丈夫なのかねぇ?

「ドーマ・キサ・ラムーン! 光出でよ汝、流星号!」

 マジカルライダーがちゃっちゃと手で印を組み、唱える。と同時にどーんと魔法陣だか錬成陣だか知らないが円陣が大地に出現、その中からペガサスが出現する。てめぇ、一体何パターン持ってるんだよ、ペガサスの出現パターン。

「バーサーカー!」

 ペガサスの背中に、赤毛の小僧と一緒に乗り込んだちびすけが、凛とした声を張り上げる、ははーん、あれがアインツベルンの使者か。つーこたぁ、聖杯の器もあいつが持ってる可能性が高いな……と足を踏み出しかけた俺の目の前に、どんとでっかい影が出現した。鉛色の身体を持った、巨人。ちびすけが言うバーサーカー……狂戦士か、なるほどな。こいつら、このデカブツを盾にして脱出する気か。

「は、舐めんなァ!」

 俺は愛用してる赤い槍を振り上げる。と同時にバーサーカーが動き、斧剣を軽々と振り下ろした。このデカブツめ、見た目よりずっと素早い!

「――■■■■■■!」
「――!」

 何とか横っ飛びで巨大な剣をかわしたところに、マジカルキャスターの光のミサイルが無数に突っ込んでくる。これはある意味飛び道具に当たるんだろうな……射線が目を閉じても見えるぜ。あいにく、俺には飛び道具は効かないんでな。

「はぁっ!」
「させません!」

 マジカルキャスターを狙って突き出した穂先が、マジカルセイバーの見えない剣に阻まれた。あー、ギルガメッシュ悪いな。こいつの相手が一番気分が良いんだよな、俺は。

「よぅ、セイバー。相手になって貰うぜ!」
「そこをどきなさい、コマンダー・ランサー!」
「どかせたいなら、力ずくで排除しな!」

 お互いの得物がぶつかる金属音が気持ち良く耳に響く。おっと、横からバーサーカーの大剣が振ってきたぜ。まともに食らったら拙いから、すんでの所で身を捻って避けた。ちらりと視界の端で確認すると、ペガサスに乗ったマジカルライダーやマジカルチェリー、マジカルリンリンの相手は合体した黒い影ども。……なんか、チェリー相手の連中が妙にやる気なさげに見えるんだけどな。気のせいか?

「っつーかギルガメッシュ! てめぇ、少しは手伝え!」

 あー、何か変だと思ったらあのやろー、えらそーに少し引いた位置でぼさっとしてやがる。そんなことしてたら、マジカルセイバーの首取っちまうぞ!

「ふん、我に命ずるな」

 気怠げな声でぼそっと。文句があるならきっちり働きやがれ、俺だっててめーなんぞと一緒のお仕事なんていやなんだよ。けど……奴が一歩足を踏み出した瞬間、周囲の空気ががらりと変化した。この野郎、元聖杯戦士だか何だか知らないがこういう時の迫力だけはあるんだよな。
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