マジカルリンリン17
 魔術師遠坂凛は聖杯戦士マジカルリンリンである。
 冬木の地を守り、悪の組織アンリ=マユを滅ぼすため仲間たちと共に戦っている。
 大聖杯へと向かう凛たちの前に立ちはだかるは、裏切りの戦士・ギルガメッシュ。
 金の戦士を倒すために士郎は解き放つ。彼の唯一にして最大の奥義・固有結界を!
「うおおおおおおっ!」
「く、雑種ごときが!」

 ガキン、ガキンと重い金属音が続けざまに響く。うぅ、剣戟の音がここまで腹に響くなんて、初めて知ったぞ。わたしはさすがに力が弱いし、セイバーは正面から打ち合うより、敵の攻撃を受け流して反撃する方が多いから。
 士郎とギルガメッシュの剣の勝負は、意外というか当然というかほぼ互角だった。いやまぁ、わたしたちが邪魔してくる金ぴかの剣たちを片っ端から叩き落としてるせいもあるんだけど。

「ならば、これならどうだ!」
「は、まだまだぁっ!」

 それ以外にも、互角に戦える要因はある。2人の使っているシステムの違いだ。
 ギルガメッシュは、どういうやり方でかは知らないけれど大きな宝物庫を持っている。その中から、剣を探して取り出して使う。彼は『アーチャー』だけど、剣の使い方もそれなりに習得してるみたいで、自分の好きなように剣を使ってる。
 士郎は、今自分の世界の中にいる。ギルガメッシュが取り出してきた剣を見た瞬間、この世界にはその剣の写しが出来上がる。写しの剣は士郎の手の中に現れて、自分の使い方を士郎に教えてるようだ。だって、士郎が違う剣を振るたびに、その動作が微妙に違うんだもの。
 結果――『本物』の『持ち主』であるギルガメッシュよりも、『偽物』の『使い手』である士郎の方が技量としては上、ってことになる。何しろ、同じ剣で戦ってるわけだしね。

「くぅ……たかが鞘の宿主の分際で!」
「そのたかが宿主に苦戦してるのは、どこの誰だよ!」

 ギィン! バキッ!
 『同じ』剣同士がぶつかって折れる。1本は砕け散った破片を無惨に飛び散らし、もう1本は朝もやのように幻想へと還る。
 ああ、これで何本の剣が同士討ちさせられたんだろう。だけど、まだあいつの背後には、呆れるほど大量の剣が出番を待っている――。


第17話
―激闘・固有結界! さらばギルガメッシュ!―



  - interlude -


『く……!』
「やはり、黒くともセイバー。私の魔眼で石化するには至りませんか――その対魔力、見事なものです」

 ブラックセイバーが身体を折る。私は彼女を凝視しながら、その抵抗力の高さに感心していた。
 私の魔眼……石化の魔眼キュベレイ。大抵の相手であれば、私の視界に入った瞬間にその肉体は硬直し、やがて全身が石と化す。自分自身ですら制御できないこの力を抑え付けるために、普段は魔眼殺しのレンズをはめ込んだ眼鏡を掛けているのだ。
 であるにも関わらず、今私の目の前にいるブラックセイバーはその肉体を石化させていない。魔眼の重圧により、動きが鈍っているのは確かなのだが……おのれ、悪の組織が作り出した偽者は本物より能力が落ちているというのはお約束でしょうが、グランドマスター。

『……こ、の程度、で……私は、負けません……っ! はぁあっ!』

 く、斬りかかってこられるとは! 咄嗟に愛用のダガーで黒い剣を受け止め、鎖を叩きつける。ふむ、やはり私の魔眼、効いていないわけではないようだ。今の鎖の攻撃、本来のセイバーならば剣で切り払うなり飛び離れるなりできたはず。

「いいえ、あなたには負けて貰います……そこをどきなさい、ブラックセイバー!」

 鎖の方を持ち、ダガーを彼女目がけて投げつける。刺さるか、とも思ったが、やはりそうは問屋が卸さないようだ。できれば安値で卸して欲しかったのだが。

『どきません! あなたたちには、聖杯の贄となる為にここで朽ちて貰いましょう!』

 ガキンと音を立て、私のダガーが地面を転がる。その上……鎖を踏むようにして、ブラックセイバーがまっすぐ私を目がけて駆け込んでくる。両手で構えた黒い剣を横から薙ぐように、大きく振ってきた!

「――!!」

 間一髪、私とブラックセイバーの間に不可視の膜が出現した。キャスターが張ってくれた、魔力による防御壁だ。私たちの仲間であるマジカルセイバーが相手ならば、この膜は物の役には立たないだろう。だが……

『っ!』

 ほんの一瞬。それだけだったけれど、黒い剣はその勢いを殺された。その隙を逃さず、私は思いきり鎖を引っ張った。その上に、ブラックセイバーが乗ったまま。

『きゃあああっ!?』

 どてーん!
 ああ、何て漫画のような転び方。ブラックセイバーは足元を掬われて、背中というか後頭部から盛大にすっ転んだ。そこへ、私が上からダガーを振り下ろす。

「はぁあっ!」
『く、このっ!』

 ぎぃん!
 ち、反応が素早い。私が渾身の力を込めて振り下ろしたダガーは、ブラックセイバーが咄嗟に盾代わりに構えた黒剣の腹で受け止められた。すかさず彼女が振り上げた脚が、わたしの腹を直撃する!

「うぐっ!」

 そのまま私は吹き飛ばされ、地面の上に投げ出されかけて……ふわりと昼間干した布団のような感触に迎えられた。ふむ、どうやらキャスターが魔術で衝撃を緩和してくれたようだ。おかげで、士郎が作ってくれた食事を吐き出さずに済んだ。勿体ない勿体ない、そんなことをしてサクラにばれたら後が怖い。

「ライダー!」
「感謝します、キャスター!」

 彼女を視界に入れないよう、言葉だけで礼をしながら姿勢を立て直す。ああ、チャームポイントとは言えこういう時にこの髪は邪魔だなぁ。次からポニーテールなりツインテールなりにしてみるか……いや、ツインテールはリンとかぶるな。

『く……やはり、一撃で消し飛ばした方が良かったですね……!』

 やっとの事で起き上がり、黒い剣を構えながらブラックセイバーが叫ぶ。けど、まだ脳震盪が治まらないのかくらくらしている模様……ふむ、エクスカリバーを使うつもりか。しかし、こちらにはその技に対抗できるだけの技がない。私のベルレフォーンでは、真正面からぶった切られて終わりだ。

「ライダー」
「何です、キャスター?」

 おや。私の背後ギリギリまで迫ってきていたキャスターの低い声が、私の耳に届いた。彼女が、何か考えついたのだろうか?

「ライダー、よく聞きなさい。――」
「ふむふむ、なるほど」

 ほほぅ、そういうことですか。そう言えば、前にリンも同じようなことをやってくれましたね。ならば、彼女よりも魔術師として特化されているキャスターならば問題はない、と見てよいでしょう。

「承知しました。では、下がってください」
「よろしくね」

 足音だけでキャスターが安全圏まで後退したことを確かめてから、私はじっとこちらを見つめているブラックセイバーを睨み付けた。私の魔眼が効いているのだろう、その身体を襲う重圧に耐えるのに必死の呈だ。ならば、今のうちに喚ばせて貰おう。

「憎悪の空より来たりて、正しき怒りを胸に……我等は魔を断つ剣を執る! 汝、無垢なる刃――流星号!」
「……いえ、確かに白いですけど……」

 何か背後から聞こえたが、無視する。私の詠唱と同時に、目の前の大地から僅かに浮遊した空間に召喚陣が現れる。陣を構成する文字が荒れ狂い、くるくると円を描きながらゆっくりとあるべき位置に納まっていく。そして……その上空に光の珠が浮かび上がり、中から可愛い我が子……ペガサス・流星号が勢いよく飛び出してきた。

「ヒヒヒィ――――ン!!」
『ペガサス! ――わたしには効かぬと知りなさい!』

 白い全身、白い翼を持つ我が子を見て一瞬歯がみし、ブラックセイバーは黒い剣を構えた。その剣が鈍く、やがて鮮やかに光を放ち始める。やはり、彼女はエクスカリバーで私たち2人を消し去るつもりのようだ。だが、それを分かっていて何も手を打たないほど、こちらも馬鹿ではない!

「キャスター、頼みます!」
「ええ、任せなさい!」

 流星号に飛び乗り、洞窟の天井すれすれまで舞い上がる。ここからだと、ブラックセイバーの位置を把握する術は光り輝く剣だけでしかない。いや……それで十分だ。私はただ、その光を目がけて舞い降りればいい。

『あああああ――!』
「うおおおお――!」

 ブラックセイバーの叫び、私の叫び、流星号のいななき、吹き荒れる風。

『――約束された――勝利の剣!!』
「――騎英の手綱――!!」

 そして、お互いの最強技を解き放つ声が、閉鎖空間に響き渡る。負けてなるものか……私は、ここで吹っ飛ばされる為に聖杯戦士になったのではない!


  - interlude out -
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