マジカルリンリン17
「ハッ、ハッ、ハァッ!」
「ぬ……くっ!」

 バキン!
 ほんと、これで何本目だろう。ギルガメッシュの持つ『本物』と、士郎の創り出す『偽物』の相討ちは。二人の周囲には、砕けた剣たちの欠片が無惨に散らばっている。あれは全部、ギルガメッシュのもの。
 つーか、わたしたちの周囲に転がっている分も含めたらあの金ぴか、何千本持ってるのよ!? いくら先代の聖杯戦士といえども、これは大いなる詐欺に違いない。ちくしょう、何本かわたしに提供しなさい。良い値で売っぱらってやる。

「ち……贋作者の分際で!」

 む、また新しい剣取り出した。ほんと、きりがないったらありゃしない……ってあれ、何かあの剣は他のとは違う。ドリルな感じ……あ、アーチャーが言っていた奴か! 拙い、何か蒸気噴いてるしっ!

「シロウ! 危ない!」
「く、頼むセイバー!」

 咄嗟にセイバーが2人の間に割り込む。士郎が足を引いたのは、あれには自分じゃ対抗できないって分かったからなんだろう。

「セイバー! ようよう我と歩む気になった……ぐわっ!」
「しつこい!」

 どばしゅっ!
 うわ、セイバーってば。ドリルな剣ごとギルガメッシュの腕切り落としちゃったよ。で、ついでとばかりに力一杯蹴り飛ばす。でもまぁ、あのドリルな剣は下手に打ち合うこともできなさそうだから、これでいいのかもね。って、ええいまた細かい剣がうじゃうじゃと! あんたらはビットかファンネルかドラグーンかぁあ!

「は、この、てぇい!」

 喚いてる暇なんてないから、ゼルレッチで次々と切り落とす。うむ、全力で振り回すのでなければ腕に負担は掛からないっぽい。アゾット剣じゃ正直、金ぴかの剣軍団の相手はきつかったから助かる。ありがとう、士郎。

「く……貴様ら! こうなったら……我が全力をもって殲滅する!」

 切り取られた腕の傷口を押さえようともせず、ギルガメッシュが残された腕を高々と上げた。その瞬間、彼の背後に浮かび上がっていた剣たちが全て切っ先をわたしたちに向ける。

「は、まだ諦めないのですかギルガメッシュ! たいがいにして下さい!」
「そうだな。フラれた腹いせに暴れているようにしか見えないぜ!」
「そうねぇ……いやぁね、変態ストーカーなんて。あの金の鎧だってただの成金趣味にしか見えないじゃないの、ダサイわよねぇ」

 ストーカーされてたセイバーは本気で怒ってるけど、わたしと士郎にとってはまぁ邪魔者、ってくらいの認識。いや、敵としては強敵なんだけど。だから、罵倒してやる。

「誰が成金だぁっ! ……我が武器どもよ、あの口の減らない小わっぱどもを血の海に沈めよ!」

 あ、やっぱり怒った。だけど、奴の怒り具合と剣たちの狙いの正確さとはどうも関係がないみたい……鋭い光と共に、大量の切っ先がこちらに向かって突っ込んでくる――!

「まだ分かってないようだな。ここは俺の世界だ!」

 圧倒的な力量をもって侵攻してくる敵軍に対し、士郎はまっすぐ前を見つめるのみ。その手が軽く振られると同時に、突っ込んでくる剣たちを次々と、鏡写しの剣たちが相討ちで破壊していく。そう、今この世界は大聖杯のある洞窟じゃない。士郎が魔力で作り出した、士郎の世界だ!

「はぁあああ――っ!」

 セイバーは見えない剣で、わたしはゼルレッチで次々と武器たちを叩き落としていく。士郎は剣以外の武器を写すのは不得手みたいで、だから槍や矛や鎌なんかはセイバーやわたしの担当、みたいな感じになってる。
 ……で。
 一瞬、金色のサーヴァントが見えた。隙だらけの姿で。それを見逃す、わたしたちではない――!
 セイバーが一気に風王結界を吹き飛ばし、金の剣を発光させる。吹き荒れる暴風の中、青いドレスと銀の鎧が一気に金の鎧を射程に入れた。エネルギー充填120%、発射ぁ!

「約束された――勝利の剣――――!!」
「――な」

 無抵抗のまま、その光に飲まれていくギルガメッシュ。その瞬間、あいつは驚いた顔をした。それから、楽しそうな笑顔。

「……これが、我の最期か……ではな、セイバー。また、縁があらば会おうぞ」
「――その性格が治っていれば、デートくらいはつき合いますよ」

 そう言ったセイバーに、ほんとに嬉しそうに笑って。
 士郎の世界を巻き添えに、ギルガメッシュは光の中に消えていった。


  - interlude -


『取った!』

 突進する私を睨み据え、黒き剣士が勝ち誇った笑みを浮かべる。が、それを口にするのは私の方だ。何故ならば。

「――!!」

 キャスターの、ほんの僅かの詠唱。それと共に、私と流星号を淡い光が包み込む。そう、キャスターが私に提示した意見とは、私たちを彼女の対物理防壁で包み込むというものだった。どうでもいいことだけれど、中心核は弱くないだろうな?

「おおおおお――!」
『な、んだと――!?』

 エクスカリバーの圧力に負けじと突き進む流星号。その意味に気付いたのか、ブラックセイバーの表情が変わる。ふふ、恐らく彼女はキャスターの存在をうっかり失念していたのだろう。そういうところはリンから伝染でもしたのだろうか?

『くぅう……負けてなるものか! うわあああ――!』

 やはり、彼女も威力を高めてきた。こちらこそ、負けてたまるか。向こうがコロニーレーザーならこちらは白色彗星だ、中心核さえ捉えられなければ負けることはない!

「ライダー!」
「下がっていなさい、キャスター!」

 一歩踏み出した仲間を、声だけで抑え込む。彼女は魔術戦に特化された存在、こんな力一辺倒の勝負に紛れ込まれても迷惑なだけ。それに……仲間を倒されたら、あの心優しい鞘の主が悲しむ。そうなればサクラも悲しむ……私には、そんなことは許せない。

「あなたには……闇に染まったあなたになど、私は負けない!」
『世迷い言を! 我らが神の力は無限、聖杯戦士などに、負ける、わけがぁあああっ!?』

 元々制御なんてできない私の魔眼。それを精一杯に開き、黒いセイバーを見つめ続ける。その重圧はぎしり、ぎしりと音を立てて彼女の動きを阻害する。彼女が持てる全ての力をランクダウンさせるがごとく、全身を抑え込む――そして、そこを流星号が駆け抜ける!

「はああ――――っ!」
『――――!!』

 最後のブラックセイバーの声にならなかった声は、悲鳴だったのだろうか。私と彼女は同時に弾き飛ばされ、この空間の相対する壁に叩きつけられた。


 意識が飛んでいたのは一瞬だったのだろうか、それとも少し間があったのだろうか。私が目を覚ました時、視界の端にはゆらりと上半身を起こしかけているブラックセイバーの姿があった。私も何とか身を起こさねば……くぅ、背中が軋む……私の、ダガーは、どこに……。

『う……くぅ……』

 ぎち、と鎧を軋ませながら、黒いセイバーが壁を頼りに身を起こした。私は防具を纏っていない身、岩に叩きつけられたダメージが彼女より大きいのは分かっていたけれど、まだ身を起こせないというのは――致命的か?

『く……マジカル、ライダー……よく、やりました……』
「……誉めて貰っても、報償は無しですよ……」

 うく、どうにかこうにか壁を背もたれにして起き上がれた。だけど、まだ立てない。その間にも一歩、また一歩と彼女は私へと歩み寄ってくる。その手に、ぼろぼろになった黒剣を携えて。対する私は丸腰も同然だ。流星号は先ほどの衝撃で元あるべき世界へ戻ってしまったし、ダガーは手元にない。魔眼の威力は、彼女の身体を重くはしても石と化すには足りない。

『……ですが、この勝負……わたしの、勝ちです。おとなしくその生命……我らが神への贄と、なさい』

 少し離れたところに立ち、彼女が剣を振り上げる。私は動けない……く、このままみすみす殺されるなど……サクラと士郎に申し訳が立たない。

「悪いわね。そんなことはさせられないわ」

 どす。

『――こふっ……』

 ブラックセイバーの身体に、その背後から重い衝撃が走った。ちらりと見える、薄紫色のローブ。じゃらり、と音を立てたのは、私のダガーに付属している鎖。
 ああ、いけない。このままでは彼女を石化してしまう。私は胸元から魔眼殺しを取り出して掛けた。その視界に入ったのは、口からどす黒い血を吐いたブラックセイバーから黒い剣を易々と取り上げる、ほとんど無傷のキャスターの姿。

『失念……していました……マジカル、キャスター』
「そのおかげで、あなたの隙を突くことができたのだけどね」

 がらんと音を立て、剣が地面に放り出される。ゆっくりと後ずさりするキャスターの動きと共に、私のダガーがブラックセイバーの背中から引き抜かれて……彼女は再び、血を吐いた。

『がふ……た、しかに……この勝負は……キャスター、あなたたちの……勝ちの、ようです……』
「それは良かった。これで私も、生け贄などにならずに済む」

 何とか呼吸を整えて、彼女の言葉に返答する。「大丈夫ですか?」と駆け寄ってきてくれたキャスターにありがとう、と一言答えて、私は再びブラックセイバーを見つめた。
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