医者を目指したキッカケは、小さいころに聞いたニュースだった。

「どこどこで事件が起きて怪我人が出たが、駆けつけたISS医療班の医師のおかげで大事には至らなかった」
というようなものだ。
 それを聞いた時はまだ小さかったので、「困っている人の所に来て助けてくれるんだから、きっとこのお医者さんたちはヒーローなんだ」みたいな事を思った記憶がある。
 それが多分、最初のキッカケだった。

 とはいえ、それから勉強に励んで一心不乱に医師を目指した、という訳ではない。
 なにぶん小さい子供の頃の事だ。その時は確かに医師に憧れたものの、成長するにつれてそんな思いは忘れてしまった。
 そして時は流れ、将来の進路を見定めなけばならない年齢になったそんなある日。
 友人との雑談で小さかった頃の話になり、思いがけずかつて医師に憧れていたことを思い出した。

 そんな些細なキッカケで、医師への道を歩み始める事になる。
 勉強は私塾などに通えていた為それなり以上には出来ていたと思うし、学費については奨学金制度があるからどうにかなる。
 小さい頃の憧れたヒーローを目指すのも悪くない。そう思ったのだ。



 歩み始めたはいいが、思っていた以上に大変であることはすぐに実感することとなる。
 まず学校に受からなければどうしようもないので猛勉強を開始。一日のほぼすべてを勉強に費やす事になった。
 その甲斐あってどうにか入試に合格して無事入学出来たものの、本当の始まりはそこからだった。
 なにせ覚えることが多い上、しかも慣れない事ばかりなのだ。(もちろんそれらは人の命にかかわる重要なことだ)
 学校に入る前より勉強している気がするが、きっと気のせいではないと思う。

 そしてなんだかんだあり、現在は救命救急医の研修中である。
 わざわざ過酷を極めるという救命救急医になろうとしている事に自ら茨の道を進んでいるような気がしないでもないが(きっと気のせいじゃない)、でもやはり、かつて憧れたヒーローになるならこの道しかないと思ったのだ。