草原まで来た道を戻っていると
「おやまた会ったね。もしかして私に惚れて会いに来たのかい?でもダメだよ私にゃ愛しい愛しい旦那様とかわいい子供たちがいるからねあっはっはっはっは」
と、青果店の前で先ほどの女性が笑いながら声をかけてきた。
願い羽を飛ばしに高台へ向かっている旨を伝えると、女性は目を細めつつ
「へぇ、どんな決心を?」
と優しい声音で尋ねてきた。
心に決めた、決心したことはなにか、と。
今一度心に問いかける。
呼吸を落ち着けて心に耳を傾ける。
すると自然に、この想いは、決意は本物である、とそう確信出来た。
だから堂々と
「救命救急医になって、人を救うことを。今はまだ雲を掴むような話ですけど……いつか、必ず」
胸を張って、そう答えた。
女性は、そうかい、と嬉しそうな笑顔をして
「大丈夫さ、あんたなら絶対に掴めるさ。私が保証してあげるよ!」
と力強く言ってくれた。
高台につく。
備え付けのベンチがあったので座る。
手には貰った白い折り紙とペン。
心にある想いを込めて記し、決意を確かめながら折る。
出来た願いを大切に抱き、立ち上がって草原がある方へと進む。
草原は遠くにあった。そして雲はそれ以上に遠く、高くにあった。自分のこの願いの終着点は、どれだけ遠いのだろう。
それでも、そこに必ずたどり着くと、そう決意した。
雲と同じ色の願い羽が飛んでいく。
上手く風に乗れたのか、空をまっすぐに上へ上へと昇っていく。
もしかしたら雲の高さまでたどり着けるかもしれない。
手を伸ばしてみても、今はまだ届かないその高みまで。
でも、いつかは必ず。
だから今は、ただその軌跡を見つめていた―――――。
雲を掴む民。
それはなにかを心に決め、それを叶えよう、守ろう、と決心した人を指す言葉。
それは単純に夢とも呼べ、まるで不定形で空高くにある雲のように、今は輪郭もはっきりしない為おぼろげにしか見えず、遥か遠いところにある。
だがそれでも諦めず、いつか必ずそれを掴んでみせると決意した者を表す。
それは人種ではなく、人の心を指す。
2つの国が合併して出来た国で、異なる2つの人種の人間が一緒に暮らしているからこそ生まれた概念。
人種は違っても、心は同じ。それゆえに出来た言葉。
ゆえに、『人』ではなく『民』と呼ぶ。
願わくば、この民たちがいつか雲を掴めますように―――。
END