日差しの眩しさで目が覚める。いつの間にか眠ってしまっていたようだ。
 どのくらい寝てたのかわからないが、太陽が大分動いているのでそれなりの時間を眠ってしまったようだ。
 身体を起こすが、まだボーっとする。
 そのまままどろみを楽しんでいると
「こんちはー!」
 とどこからか声をかけられた。
 周りを見回してみると、こちらに手を振りつつ近づいてくる青年が見えた。
 何してるんですかー、天気いいですねー、なんて話しかけてきたので、そうですねー、休みで暇なのでちょっとブラブラと、などと会話をしていると
「いやー、実はお願いがありまして」
 こう切り出してきた。そして
「自分、楽器職人の見習いでして。で、突然で申し訳ないんですが、もしよければこいつの音を聞いてやっちゃあくださいませんかね? そして是非感想を!」
 パンッ、と両手を合わせられ頭を下げられてしまった。
 そう言われても、私は別に音楽とかに詳しい訳ではない。
 聴いた所で素人丸出しの感想しか言えないから役に立てるとは思えない。
 戸惑いつつもそう伝えるが
「ええ、全然かまいませんから! 無問題です! ですので是非是非!!」
 なんてグイグイ来るので、つい押し流されて頷いてしまった。
 ありがとうございますー!、なんていいながら青年は抱えていたケースから楽器を取り出し、演奏を開始した。



 演奏が終わった後、拙いながらも感じたことをそのまま青年に伝えた。
 時折青年の方から「ここはどうでしたかね?」などど質問されたりしつつ、出来る限りのことを答えていった。
 コクコク頷きながらメモを取る青年の熱意はすごかった。
 そんな青年を見ていたら、つい自分とを比べてしまった。
 自分はこんなにまで熱意を持っているのだろうか…。
 思いつきの様なキッカケで医師を目指して……。
 救命救急医になってもいいのだろうか………。
「どうしました? もしかしてご迷惑でしたか? ご迷惑ですよねそうですよね、本当にすみませんです!」
 私が突然黙り込んでしまった為、それを青年は勘違いしてしまったようだ。申し訳なさそうに何度も頭を下げてくる。
 慌てて、いや違うんですよ頭を上げてください、と青年に伝えて訳を話した。
 すると
「え? それってダメなんですか?」
 あっけらかんとそんなことを青年は言った。
「別にアリだと思いますよ? だって思いなんて人それぞれじゃないっすか。他の人と思いを比べる必要なんてないんす! そんなの違って当然なんすから!」
 いやでも、と反論しようとすると
「気にすんな! 人は人、自分は自分!」
と堂々と胸を張って言われた。
「人は人、自分は自分!! 復唱!」
 戸惑っているとさらに
「さん、はい! 人は人、自分は自分!!」
 勢いに負けて復唱すると
「そのとーり! だから気にすんな!」
 満面の笑みで言われた。
 ここまで力強く言われて、迷っていたのがバカらしくなって、もう信じるしかないという気になってしまった。
 そうだよな、本来比べるべきじゃないことで人と比べて、自分がダメだと思って凹むのは違うよな。
 こんなことで弱気になっていた自分が恥ずかしい。
 青年のおかげで吹っ切れた。こうなりゃトコトンやってやる!
「お、いい顔になりましたね! では、さん、はい!」
 草原に2人の声が響き渡った。





「では自分はこれで。どうもありがとうございました!」
 お礼を言いたいのはこちらの方だというのに青年はそんなことを言って去ろうとした。
 せめてなにかお礼は出来ないかと思い、先ほど買ったリンゴを思い出したのでいくつかプレゼントした。
「美味しそうなリンゴですね! ありがとうございます!」
と青年は嬉しそうに受け取ってくれた。
 そして
「お互いがんばりましょーねー! ではー!!」
と、手を振りつつ青年は去っていった。
 さて帰るか、と思いリンゴの入った紙袋を持ち上げると、リンゴ以外の何かが見えた。
 そうか、青果店の女性がおまけでくれたものか。
 中身が減って簡単に取り出せたので手に取ってみて、その薄っぺらい物の正体がなんなのか確認してみた。



 それは、白い折り紙だった。